top of page
プロローグ~クリスマスプレゼント

~~プロローグ~~

 

「女性ホルモンの数値を測定したらね…とても結果が良くなっていたから、ちょっと1回目の体外受精を前倒しして…年内の、12月の初めに行うことになったの」

 

アレクセイとの挙式を終えたアルラウネは、以前より一層美しくなり、以前にはなかった柔らかな雰囲気を纏っている。大企業の副社長という激務から解放され、愛する伴侶と手を取り合って日々を送っている心の安息からなのか、肌つやも増し、以前より若返ったようにすら見える。

 

― 妊活の一環でジムに通い始めたのだけど、身体を動かすのがとても楽しくて。

というアルラウネの話に影響されたユリウスは、以来アルラウネと同じスポーツジムに入会し、ワークアウトに励んでいた。今日も二人並んでエアロバイクを漕ぎながらおしゃべりに花を咲かせ楽しい時間を過ごしていた。

 

― こんなに、可愛い人だったんだ。

 

エアロバイクを漕いでいたユリウスが、隣のそんなアルラウネの笑顔に、一瞬見とれる。

 

「ん?どしたの?」

 

「あ、なんでもない。よかったね!でもそれ分かるような気がするよ。…だって今のアルラウネ、すっごく可愛いもん」

 

「ええ~?!やめてよ。…もう可愛いなんていう齢じゃないわよ。わたし」

 

「そんなことないよ。可愛いに…齢は関係ないよ。今のアルラウネは可愛いよ。…きっとアレクセイが、あなたの可愛さを引き出したんだね」

― 前髪、可愛い。すっごく似合ってる。

 

アルラウネは今までのセンター分けのボブヘアから、眉の真上あたりの長さで前髪を作り、斜めに流していた。その新しいヘアスタイルはアルラウネの綺麗な顔と大きく印象的な黒い瞳をよく引き立てていた。

 

「…ありがと。こないだね、美容院に行って…やっぱりあなたと同じ事言われたの…。「なんだか雰囲気に可愛らしさが出てきましたね」って。。。でね、薦められて、ちょっとイメチェンしてみたの。不思議ね…。以前だったら、「可愛い」なんて言われたら「バカにして!」って気分を悪くしてたのに、今は…美容師さんに言われた時も、あなたに言われたときも…素直に嬉しかった」

 

ちょっとはにかみながらアルラウネが答えた。

 

「うん。あなたは、可愛い。美しくて可愛い」

 

「ありがと…。最近ね、ジムに通って身体動かしてるでしょ。そのせいかしら、身体の凝りもすっかり解れて、私こんなに体調がいいの、本当に何年振り…って感じよ。夜もよく眠れるし」

 

「え?それは…ちょっとアレクセイ的には困るんじゃない?そっちの体力はとっといてあげなよ~」

 

「あなた…可愛い顔して…、結構どぎつい事はっきり言うわね。。。」

 

「うふふ…。」

 

― pipipipi…

 

バイクを漕ぎながらおしゃべりに夢中になっている二人に、エアロバイクのアラーム音が設定時間の終了を告げた。

 

「終わりにしよっか」

 

二人はバイクを降りてフロアを後にした。

 

 

ロッカールームでシューズと靴下を脱ぐ。

 

ユリウスの鮮やかなつま先がアルラウネの目を惹く。

 

「いつも綺麗なペディキュアしてるわよね」

 

アルラウネに褒められて、ユリウスが心底嬉しそうな顔で答える。

 

「ぼくはピアニストだから手の爪は伸ばせないんだ。…だからね、その分の情熱がペディキュアへ回ってる感じ?なのかな。仲のいいヴァイオリニストの子も同じで、もうぼくたち二人のペディキュアに対する情熱ハンパない!」

 

「へぇ。そうなの。…私もやってみようかな」

 

アルラウネが自分のつま先に目をやる。

セルフネイルではあるけれども、コックリとした落ち着いたレッドのネイルが塗られていて、手入れの行き届いた綺麗な足である。

 

「やろうよ!そのネイルも綺麗だけど、たまに変えてみるとやっぱりウキウキするよ。

…ねえ、この後アナスタシア―、あ、アナスタシアってね、さっき言ってた仲のいいヴァイオリニストの子なんだけど―、とネイルサロン行く約束してるんだ!アルラウネも一緒に行かない?」

 

「え?いいの?」

 

「もっちろ~ん!仕上がったら、三人で写真撮って、インスタ上げよ?」

 

「いいわね。楽しみ」

 

そう言いながら、二人はシャワールームへと向かった。

 

・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。

~~クリスマスプレゼント~~

 

12月最初の土曜日。

アルラウネの最初の体外受精が行われた。

 

体外受精させた胚を子宮へ移植し、妊娠判定までの長い二週間を過ごす。

 

そして判定が下されるその日を迎えた。

 

「別に…一緒に来なくたっていいわよ」

 

「いや…。行く」

 

「そ?ありがと」

 

アレクセイに付き添われてクリニックへ向かう。

 

採血をして、アレクセイと診察の順番を待つ。

 

アレクセイはこの状況にどうにも落ち着かないようである。

 

ソワソワとヘッドホンをつけたり外したり、外を見たかと思えば廊下を慌ただしく通り過ぎていく病院スタッフを眺めたり、身の置き所がないようである。

 

「アレクセイ、落ち着きなさいよ。…外でコーヒーでも飲んでる?」

 

しまいには隣でアレクセイよりも余程落ち着き払っている当事者のアルラウネに気を使われる始末だった。

 

そしてようやくアルラウネの名前が呼ばれた。

呼ばれた二人が診察室に入る。

 

 

 

「おめでとうございます。妊娠していますよ」

 

医師が二人にそう告げた。

 

「ほ…本当ですか?」

 

アレクセイの声が思わずうわずる。

 

「はい」

 

「おい…アルラウネ!よかったな。…アルラウネ?」

 

思いがけないビギナーズラックに茫然とその吉報を聞いていたアルラウネにアレクセイが怪訝そうな顔で呼びかける。

 

「あ…えぇ。…何か…こんなに上手くいっていいのかと、ちょっとびっくりしちゃって」

 

「あなたの場合は…高齢ではありますけれども、不妊というわけではなかったので。実際途中からはホルモンの数値も劇的に良くなって、これは最初のトライでうまくいくかもしれない…と思ってたのですよ。とはいえ、まだ今後生理が来てしまって…流れてしまう可能性もあるのですが、まずは今回うまくいったことを…喜びましょう」

 

医師に祝福されて、そこでようやく妊娠を実感し始めたアルラウネの顔が綻ぶ。

 

「ありがとうございます」

 

「五週間後…そうですね、1月31日に診察に来て下さい。そこでちゃんと育っているかどうか診断しますので」

 

― では、よいクリスマスを。

 

クリニックを出て二人は近くのチャイニーズレストランで、遅めのランチを摂る。

運ばれて来た飲茶で懐妊を祝う。

 

「おめでとう。アルラウネ」

 

「ありがとう。アレクセイ」

 

蒸したてホカホカの湯気を立てた翡翠餃子を箸で摘まんで乾杯(?)する。

 

「うめ~~~」

 

ぷりぷりのエビが入った餃子を頬張りアレクセイが感嘆の声をもらす。

 

「…」

 

「どうしたんだ?アルラウネ。食えよ。お前飲茶好きだろ?」

 

妙に口数の少ないアルラウネに、アレクセイが訝し気にアルラウネの顔を覗き込む。

 

「うん…」

 

「おい、どうしちゃったんだよ?もっと「わ~嬉しい」とか「きゃ~どうしましょう」とか…喜ぶかと思ったぜ。何だよ~?その薄い反応はよう?」

 

「だって…私だって妊活を始めてから…色々な手記やブログを読み漁ったのよ。そうしたら、どの人も…もう何度も何度も失敗を繰り返していて…だから私もそう言う覚悟はしていたから…こんなに上手くいくとは…正直予想外で…」

― だから…まだ、お腹に命の元が宿ったという自覚も…これからお母さんになるという覚悟も…まだ全然なくて…。

最後の一言を消え入りそうな声で言うと、アルラウネが初めて不安な心の内を明かした。

 

「な~んだよ。困難がないと気抜けするって…お前どんだけ苦労性なんだよ!いいんだよ、素直に喜んで、素直に自分の身に起こった事を受け入れれば。…きっと今まで頑張って来たお前を見て…天国のドミートリィと…冷凍してたドミートリィのムスコも頑張ってくれたんだよ。「もうアルラウネに苦労はさせられないぜ」ってな。だから「ありがとう!ドミートリィ!あなたのクリスマスプレゼント、受け取ったわ」ってありがたくこの幸せに浸ってればいいんだよ!」

 

アレクセイのその言葉に、アルラウネも思わずプっと吹き出した。

 

「そうだよ。そう言う顔してろよ。いちいち先のまだしてもいない苦労を予測してくよくよするなんて…全くどうにかしてるぜ」

 

アレクセイのボヤキにアルラウネが声を立てて笑い出す。

 

「それも…そうね。…アハハ!私ったらなにくよくよしてたんだろう。…やっぱり今日あんたと一緒に来て、良かったわ。ありがと、アレクセイ」

 

― 頂きます!…ん、美味しい!!

 

やっと箸が進みだしたアルラウネが、飲茶に舌鼓を打つ。

 

漸くいつもの快活さが戻ったアルラウネにアレクセイがぼそっと呟いた。

 

「当たり前だろう?…俺たちは夫婦なんだから」

 

「そうね…。そうよね」

 

 

店を出た二人の手は堅く繋がれていた。

 

 

・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。

 

 

胎内に灯ったばかりの小さな命を守るように身体を十分労った年末年始を過ごした後の、1月最後の日ー。

 

アルラウネとアレクセイは、クリニックに検診に訪れた。

 

 

「アレクセイ、いちいち検診のたびに付き添ってくれなくてもいいのよ?あなただって忙しいんだから…」

 

アレクセイが出した車の助手席でそう言うアルラウネに、

 

「いーんだよ!…俺にも、夫らしいことやらせてくれよ!…それにこうして検診についてった方が、父親になる実感湧いてくるし…」

 

アレクセイはハンドルを握りながら最後の言葉を照れくさげにゴニョゴニョと返した。

 

「…ありがと」

 

「車内、寒くないか?」

 

「大丈夫」

 

「膝掛け、掛けてろ」

 

アレクセイが後部座席に手を伸ばし、上質なウール地のチェックのブランケットを引っ掴んでアルラウネに寄越す。

 

「うん」

 

膝掛けを掛けたアルラウネの膝をアレクセイがポンポンと撫でた。

 

 

診察室で医師がエコーでアルラウネの腹部を確認する。

 

途中、「ん?」と怪訝な様子でエコーの手を止めては、別の角度からエコーを確認する。

 

「はい。ご苦労様です。いいですよ」

 

先ほどの医師の少し怪訝な表情が気になったものの、アルラウネは着ていた淡いグレーのニットワンピースを下すと診察室へと戻った。

 

「おめでとうございます。第二段階も無事クリアです。エコーの結果ちゃんと胎嚢が認められました。ちゃんとお腹で育ってますよ」

 

医師の診断結果に、アルラウネとアレクセイが胸をなで下ろす。

 

「それでですね。もう一点、お知らせしなくてはならない事が…」

 

少しその先を医師が言い淀んだ。

 

「一体…何でしょう?」

 

少し先を言い淀んだ医師に、アルラウネとアレクセイはゴクリとつばを飲み、次の言葉を待つ。

 

「これを見てください」

 

医師が二人に先程のエコーの画像を見せた。

 

「ここに…、二つ胎嚢が確認出来ます。…お腹のお子さんは、双子です」

 

医師の思いがけない診断結果に、アルラウネとアレクセイは一瞬呆けたように目を見開いた後、同時に「えーーー⁈」と声を上げた。

 

・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。

 

 

「久しぶり」

 

「わぁ!アルラウネ!ちょっと遅くなっちゃったけど…あけましておめでとう。元気だった?」

 

「えぇ。おかげさまで。あのね、ユリウス。私ね…」

 

検診の日の夜、晴れてお墨付きを貰ったアルラウネがスカイプでユリウスに吉報を伝える。

 

「わぁ!おめでとう。 よかったねえ」

 

妊娠を伝えられたユリウスの顔がパアッと輝く。

 

「ありがとう…。まさかこんなにうまくいくなんて自分でも思っていなかったから、びっくりするやら…。おまけにね、お腹の赤ちゃん、双子ちゃんらしいの。…私一気に二人のお母さんになるのよ?」

 

「双子?すごい!」

 

「体外受精では多いらしいのだけどね。もう、体外受精が一度で成功しただけでも驚きなのに、それに加えて双子よ?双子!…ドミートリィったら…私をどれだけ驚かせたら済むのかしら…」

 

「本当に…おめでとう。アレクセイは?…何て?」

 

ユリウスの質問にアルラウネは少しはにかんだような表情を見せる。

 

「彼ね…、体外受精が成功して、心の準備ができていなくて戸惑ってる私の分まですごく喜んでくれて、戸惑っている私に、「これから起こるかどうか分からない苦労の事を今から考えてどうするんだ?今起こった幸運を素直に喜べ」って言ってくれたの。今日の検診で…双子だと分かった時も、とても喜んでくれて…。クリニックの帰りにね、二人で本屋へ寄って妊娠と子育ての本を沢山買って、二人して片っ端から読んだの。…そうしているうちに段々、「あぁ、私本当に妊娠してお母さんになるんだなあ」って実感が、湧いてきて。それをアレクセイに伝えたら、すごく嬉しそうな顔してた。…私がお母さんの自覚を持つよりも全然早く彼の方がお父さんになる自覚を持ったみたい」

 

「そう。よかった」

 

ー あのね、実はね。

 

今度はユリウスが少しはにかんだ表情になる。

 

「本当に?」

 

その知らせを聞いたアルラウネが大きな目を一層見開く。

 

そんなアルラウネにはにかみながら、しかし満面の笑みでユリウスが頷いた。

 

「出産は…9月の予定。アルラウネ、一緒だね」

ー ぼくも、上の子からだいぶ経っちゃって、不安もあるけど、二人でがんばろ?

 

パソコンモニターの中のユリウスが、アルラウネに向かって小さくガッツポーズを見せた。

 

・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。

 

 

月齢が進み要安静となり一日の大半をベッドで過ごすようになったアルラウネが、アレクセイと二人で双子を迎える準備をする。

 

 

「バギーは二人乗りだよな」

 

アレクセイがタブレットで二人乗りのバギーを出してアルラウネに見せる。

 

「そうね…。フフ…可愛い」

 

タブレットに表示された小さな子供が二人並んで乗っているバギーの画像に、思わずアルラウネがすっかり大きくなったお腹を優しくさする。

 

「抱っこ紐は二つだな…。ほかに必要なものはないか?ホラ、これも便利そうだぞ?」

 

「そうね…。でもまだ生まれてからでいいんじゃないかしら?」

 

「お前はホンット、そういうところ呑気だなぁ。…備えあれば憂いなしっていうだろ?…ほら、レビュー見てみろよ。「本当に役に立った」ってあるじゃないか」

 

アレクセイアが大きなお腹を抱えたアルラウネの手にタブレットを乗せて指でレビューを指し示す。

 

「でも…うちはもう…経験豊富なベビーシッターもお願いしたし…こんなに育児グッズは必要かしら?」

 

「…そうか。でも…」

 

アレクセイはそう言われてもまだ諦めきれないようである。

 

「じゃあ…これとこれは…購入してみましょう?これがあればきっとあなたも子育てに参加できるでしょうし」

 

アルラウネが、タブレットに表示されたいくつかの商品を指さした。

 

アレクセイの顔が嬉しそうに輝く。

 

「そうか?…そうだよな」

 

アレクセイが意気揚々とそれらの商品の支払い処理を済ませた。

 

「あとさ…、車を買い替えようかと思うんだ。三列型の7人乗りSUVにしようかと思うんだ。そうしたら二列目にチャイルドシートを二つ乗せられるだろう?」

― 実は今日ディーラーに資料を持ってきてもらったんだ。…どう思うか?

 

アレクセイが封筒に入った資料をアルラウネに手渡す。

封筒にはTOYOTAのSUVのカタログが入っていた。

 

「…ありがとう。アレクセイ」

 

「なんか…こうして準備が整うと徐々にうちも5人家族になってきたなって…思うよな」

― お前は身体がしんどくて大変かもしれないけど…必要なものやサポートは何でも遠慮せずに言ってくれよ。

 

そう言ってアレクセイは、今や一日の大半をベッドに寝たきりで胎児を守っているアルラウネの背中を撫でさすった。

 

 

・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。

 

 

ペテルブルグが本格的な夏を迎える頃、妊娠後期に差し掛かったアルラウネが大事を取って管理入院に入った。

 

その病院はペテルブルグ市内でも上流階級の御用達の総合病院で最新医療と手厚いサービスで有名で、ユリウスも第一子のアンドレイをそこで出産していた。

 

部屋は天井が高く広々とした空間で、インテリアも洗練されていて心地よく、一流レストラン並みの味と評判の三度の食事におやつ、産後のエステといったサービスも万全で、24時間面会可能の病室は全室個室で、Wi-Fi、サブベッド、見舞客用の応接ソファー、小振りなキッチンにバストイレまで完備され、ちょっとしたホテルのようなラグジュアリーな生活が保障されていた。

 

「今日から管理入院に入ったの」

 

二卵性双生児を身籠ったアルラウネが、スカイプで早速ユリウスに報告する。

 

「元気そうだね~。安心した」

 

やはり大きなお腹を抱えたユリウスがアルラウネの元気そうな顔を確認して、安心したように顔をほころばせる。

 

「元気は元気なんだけどね。双子の場合はこれからどれだけお腹の中に入れておけるかが肝心だから…動くこともままならなくって…。それが苦痛と言えば苦痛かしらね。でもWi-Fiが使えるから早速iPadでスカイプも設定して、こうしてあなたと話せるし…。ここは24時間面会可能だから…」

 

「アレクセイも毎日仕事帰りに寄れるんだよね。…ごちそう様」

 

その先をユリウスが継いだ。

 

「そうなの!」

 

アルラウネが少し面映ゆそうに笑った。

 

「ねえ、もう性別って分かるんでしょ?…どっち?」

 

「男の子と女の子」

 

「わぁ!可愛いだろうなぁ」

 

「あなたは?」

 

「うちはね、女の子だって」

 

「そう。アンドリューシャはお兄ちゃんね」

 

「そうだね…。あ、アンドリューシャ、おいで」

 

ユリウスがちょうど通りかかったアンドリューシャを呼び寄せる。

 

「ほら、アルラウネだよ。今日から入院なんだって」

 

愛息の肩を抱き寄せスカイプ越しのアルラウネを指さす。

 

「アルラウネ、こんにちは」

 

6歳になり、どこか父親を想わせる聡そうな面差しをした少年がスカイプのアルラウネに挨拶した。

 

「アンドリューシャ、こんにちは」

 

「母がお世話になってます」

 

なかなかませた口をきく。

 

「言うね~君は!」

ユリウスがクシャっと笑って傍らのアンドリューシャの頭を抱き寄せクシャクシャと撫でる。

頭を撫でられたアンドリューシャが年相応の子供の笑顔になる。

 

「ムッター、やめて!やめてよ~」

そう言いながらも母親に抱き寄せられたアンドリューシャはとても嬉しそうだ。

 

「やめないよ~~。んん~~~!チュ!」

そのまま愛息の頭を両手で抱き寄せ、柔らかい頬に口づける。

 

「もお~~~!ムッター、アルラウネが見てるよ」

 

少し照れ臭そうにアンドリューシャがそう言った時だった。

 

「俺も見てるぞ!」

 

聞き覚えのある声と共に、スカイプに少しあきれ顔のアレクセイが映っていた。

その横でアルラウネが満面の笑みを湛えている。

 

「アレクセイ!」

 

「お前も…元気そうだな」

 

「うん。おかげさまで。そっちはどう?」

 

「まあ、順調だ」

 

「そう…。ぼくもそのうちにそっちへ行くから。その時はよろしくね~。じゃあ、アルラウネ。またね」

 

「え?もう切っちゃうの?」

 

「だってアレクセイが来たからね。お邪魔虫は消えま~す。バイバイ」

 

そう言ってユリウスがスカイプの通話を切った。

アンカー 1

©2018sukeki4

bottom of page