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​後日譚2 ~対話~

「ねぇ、窓…」

ユリウスが実体のない「窓」に向かって話しかける。

 

― 何だい?

 

「ぼくとアレクセイは窓で出会って、伝説の定め通り…愛し合って…悲劇に見舞われて、それでも愛を貫いてここへやって来たよね?母さんとヴィルクリヒ先生も…多分ぼくらと同じく…窓で出会って、愛し合って…そして最終的には…再び運命に導かれて、二人は再会して…ここへ来たのだと思う…。ねえ、ぼくらのように「窓」で出会った恋人たちは…皆ここへ来るのかな?」

 

ユリウスの質問に、「窓」はまるで彼女をそっと撫でるように微かな風で彼女の金の髪を揺すった。

 

― いや、違うな。…中にはここへ来ても受け入れる訳にはいかない恋人同士もいる。

 

そう答えた声なき「窓」の声は、どこか悲しい色を帯びていた。

 

「へぇ…。そうなんだ」

 

― 今からもう100年近く前だ。お前たちのように窓で出会った初恋同士の恋人たちが…窓の定めに従って一度は引き裂かれ、色々な出来事に傷つき、そして再び出会ったんだ。…せっかく再会したにも関わらず二人はこの世の人生の試練を、手を取り合って乗り越える事を選ばずに…結局二人手を取って人生幕を引くことを選んだ。まだ20歳前の若い二人だった…。試練に向き合わずそこから逃げてしまった恋人たちには…残念ながら窓の番人になる資格がない。手を取ってこの「窓」へやって来た彼らだったが…ここへは迎えられなかった。女の子の方は泣いていたな…。男の子の方も…とても悲しそうな顔をしていた。でもこれは「きまり」だから仕方がない。私も…あの若い恋人たちは、一度離れてそれぞれ新しい「生」をやり直して、また運命が引き寄せたならば、その時は新しい恋を初めからやり直したらいい と思ったよ。二人の新しい生を激励して、引き返してもらったが…。彼ら…特に殊更に悲嘆していた彼女の方に、私の言葉は果たして耳に入っただろうか…。今でも気がかりだ。

 

「そうなの…」

 

― わたしとて…ただ、恋人たちを不幸に誘うだけではないのだよ。…ただ試練を乗り越えられなかった恋人たちがあまりに多かったから…いつしかあんな伝説の結末が語られるようになってしまったのだけどね。…現にお前たちがやって来てから、ちょっと結末が変わったようではないか?

 

「うふふ…。そうみたいだね。…嬉しい?」

 

― あぁ。嬉しいさ。私の名誉のためにも、窓の伝説を塗り替えてくれてありがとう。

 

「どういたしまして。…ねえ、もう一つ、訊いてもいいかな?」

 

― あぁ、なんだい?

 

「母さんとヴィルクリヒ先生。いつしかこの「窓」から去って行ってしまったけど…。ぼくたちはいつまでここにいられるのかな?…ずっと?永久に…いてもいいのかな?」

 

― ずっと…ではないな。この番人としての任期は人の世の1世紀― つまり「100年」だ。100年経ったらどんなに愛し合っていても、ここを出てお互いに新しい生を生きなければならない。そこで―、また窓の伝説に則って再び出会うかどうかは…その人生しだいだな。この窓で出会っても出会わなくても、熱烈な恋に落ち愛に生きた人間は世の中に数多いる。それでも「永遠」というのは、やはりないのだよ。全てのあらゆるものは巡り巡って、変容しながら循環していくものなのだ。だから窓の定めを全うした恋人同士でも、それは例外ではない。…でも案ずることはないさ。お前たちの愛が「永遠」だと思うのならば、形を変えてもきっとまた巡り合うはずだから。

 

「そっか…」

 

― がっかりしたか?

 

「窓」の問いにユリウスはゆっくりと首を横に振った。

 

「ううん。あなたの言う通りだと思う。でも…ぼくはそれを恐れないよ。だって…世の中の全ては変容して巡り廻るものだとしても、ぼくと、ぼくとアレクセイの愛は「不変」だと信じているから。…きっとぼくらは新しい生を生きても…また出会うよ。だからぼくらは、変わることを恐れない」

 

― そうか。お前の、お前たちの「愛」は強いな…。

 

「そうだよ~。随分あなたには鍛えられたからね!」

 

― はは…。そうか。

 

 

「でも、あと50年ぐらい…まだまだここで「番人」としてお世話になります。― あ!なんか誰かが窓を見上げてる。…女の子だ。3人いるよ」

 

そう言うと、ユリウスは彼女たちを確認すべく金の髪を靡かせて窓辺へ駆け寄って行った。

©2018sukeki4

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