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出産祝い
  • おまけ

「ユリウス、おめでとう」

 

アナスタシアとロストフスキーが見舞いに病院を訪れた。

 

友人の顔を見たユリウスの顔が輝く。

 

「ありがとう!かけて、かけて!」

 

傍らの椅子を二人に勧める。

 

「元気そうね。身体はもういいの?」

 

「うん。おかげさまで」

 

「お嬢さん、見せて」

 

「うん。どうぞ」

 

アナスタシアとロストフスキー、そしてユリウスが傍らのベビーベッドですやすやと眠っている幼子を覗き込む。

 

「よく寝るいい子だよ。…見た目はちょっと今はビミョーだけど…」

 

ユリウスの言葉に二人が小さく吹き出す。

 

「確かに、貴女似ではないようだけど、整った顔立ちの子だと思うけど?」

 

「そうよぅ。可愛いわよ。瞳の色は?」

 

「ブルーだった。アンドリューシャと同じ組み合わせだね。レオニードにも同じこと言ったらね、「ヴェーラの赤ん坊の頃とそっくり」だって。でね、この子は将来絶世の美女になるって太鼓判押してくれて…安心した」

 

「そうね」

 

「名前は、決めたの?」

 

「うん。ディアナ。ディアナ・ユスーポヴァ。月の女神にあやかってね」

 

「この子の夜の闇の様な黒髪にぴったりだね」

 

ロストフスキーが赤ん坊の豊かな黒髪を褒める。

 

「ありがとう。ロストフスキーさん。万が一このまま成長しても、髪の美しさはとりあえず確保出来て安心してるんだ」

ー 艶々の綺麗な黒髪だよね…。

 

ユリウスが寝ている娘の髪を指先でそっと撫でた。

 

「もぅ!大概にしときなさいよ。ママにそんな事言われたら、ディアナちゃんも凹んじゃうわよ?子供って…赤ちゃんの時でも親の言ってる事分かってるって…言うじゃない?」

 

アナスタシアの脅し文句にユリウスが顔色を変える。

 

「本当に!?どうしよう!ぼく散々ビミョーって言っちゃった!…ごめんなさいね、ディアナちゃん。悪いママでしゅね。あなたは世界一チャーミングなママのプリンセスでしゅよ」

 

ユリウスが慌てて寝ている娘に話しかける。

 

その声が届いたのかどうかは定かではないが、寝ていたディアナが目を覚ます。

 

「まぁ!綺麗なブルーアイ」

 

「それに黒々として、とても長い睫毛だよ」

 

目を覚ましたディアナの目の美しさを二人が賞賛する。

 

「ありがとう…二人とも。何だかこの子が急に美しく思えてきたよ…」

 

他人の二人に客観的に娘の美しさを指摘してもらったユリウスが感慨深げに呟いた。

 

「まぁ!現金なお母様でしゅね〜〜。ディアナちゃん」

 

三人の間にほのぼのとした笑いが起こる。

 

「なんだか盛り上がっているな…」

 

そこへ息子を連れたレオニードが入って来た。

 

「ムッター」

 

母親の顔を見るなりアンドリューシャが繋いだ父親の手を離し、ユリウスのベッドに走り寄った。

 

「アンドリューシャ!」

ー おいで!

 

満面の笑顔で母親に迎え入れられたアンドリューシャが、ベッドの縁に飛び乗る。

 

「ん〜〜。アンドリューシャ!」

 

傍らに腰掛けた愛しい息子の頭を優しく抱き寄せて、黒い巻き毛にキスを落す。

 

一頻り濃密な母子のスキンシップを交わした後、アンドリューシャはベッドから降りると、「こんにちは。ロストフスキーさん。アナスタシア」と言ってお行儀よくペコリとお辞儀をした。

 

「こんにちは」

 

「大きくなって…。随分しっかりして来たね。幾つになったの?」

 

ロストフスキーに聞かれて

 

「6歳です」

 

と元気よく答える。

 

「わざわざ見舞いに来てもらって、ありがとう」

 

レオニードが二人に見舞いの礼を述べる。

 

「いえいえ。…この度は可愛いお嬢様の誕生、おめでとうございます」

 

二人が赤ん坊の父親を祝福する。

 

「二人が、綺麗な赤ちゃんだって…褒めてくれたよ」

 

真から嬉しそうに、瞳をキラキラさせてユリウスがレオニードに報告する。

 

「だから言ったであろう?」

 

室内が和やかな笑いに包まれた。

 

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「あ、そうだ!これ、あなたへの出産祝い」

ー 私とセリョージャから…。

 

アナスタシアとロストフスキーがユリウスに長細い箱の包みを手渡した。

 

「え?ありがとう!何かな?」

 

「あなたが欲しがってたものよ」

 

早速ユリウスが包装紙を開く。

 

中から現れたのは、ユリウスも大好きな馴染みのブランドの靴箱だった。

 

「まさか⁈」

 

ユリウスが箱の蓋を開けるとー。

 

そこにはキュートなハイヒールが薄紙に包まれて恭しく収められていた。

 

 

その靴は、柔らかなベージュピンクのヌバック地のストラップパンプスで、バックと10センチヒールにあしらわれた金のグリッターラメがキュートなプラットフォームパンプスだった。

それは、妊娠中にアナスタシアとショッピングに行った折に、ユリウスが一目惚れし、試し履きまでさせて貰ったものの、流石に妊娠中に10センチヒールは危ないという事で泣く泣く諦めた一足だった。

 

「これ、欲しがってたでしょう?だから、あなたへのお祝いは、絶対これがいいと思ったの」

 

「覚えてて…くれてたんだ」

 

ユリウスが靴を胸にギュッと抱きしめる。

 

「まあね!」

 

「ナースチャが…、お祝いは絶対これがいい!と主張するものだから。最初はベビーグッズとかじゃなくていいのかなぁとも思ったんだけど、そんなに喜んで貰えたなら、よかった」

 

「ロストフスキーさんも、アナスタシアも、ありがとう」

ー ねぇ、先シーズンのものだったから手に入れるの大変だったんじゃない?

 

「まあね。ショップに問い合わせてもなくて、ネットにも出てなくて…でも最後に強力なコネを頼ったら、あっけなく手に入ったわ」

 

ー ね?

 

アナスタシアとロストフスキーが顔を見合わせる。

 

「アントニーナだ!」

 

「当たり」

 

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「ねえ、履いてみていい?」

― レオニード!その椅子取って。

 

ユリウスがひらりとベッドから下りて、レオニードが差し出したスツールに腰かけ、プレゼントされたばかりの靴に足を入れ、ストラップを留めて立ち上がる。

 

「ムッター、可愛い!」

 

「ありがとう!!アンドリューシャ」

 

そのままランウェイを歩くモデルよろしくキャットウォークを披露し、くるりと一同を振り返り満面の笑顔でポーズを決める。

 

「どう?」

 

膝下丈のピンクの寝間着姿で腰に手を当てて一同に尋ねたユリウスに、

 

「どうって…。その寝間着姿でポーズ決められても…」

 

アナスタシアがお腹を抱えて笑いながら答える。

 

「ああ~~~~~ん!早くこれ履いてお出かけした~い!なに合せよう」

 

ユリウスが焦れた様に地団太を踏む。

 

「まあ…何はともあれ…だいぶ元気なようでよかったよ」

 

そんなユリウスにロストフスキーが苦笑いを浮かべる。

 

その時

 

「ンン…」

 

ベビーベッドのディアナがむずかり出した。

 

「あ!」

 

― お腹空いたかな?

 

ユリウスがベビーベッドのディアナを抱き上げる。

 

「じゃあ、僕らはそろそろ…」

 

それを潮に、ロストフスキーとアナスタシアが暇を告げた。

 

「うん。今日はありがとう。またね。…あ!アナスタシア」

 

「なに?」

 

「もしよかったら…隣にも顔出してみたら?…懐かしい人がいると思うから」

 

「え~?誰よ」

 

「それは会ってのお楽しみ」

 

ユリウスが悪戯っ子のようにクシャっと笑って答えた。

 

 

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「今日は…兄上には会っては行かぬのか?」

 

「いいですよ。兄も忙しいでしょうし…。今日はお邪魔致しました。奥様にもよろしくお伝えください。バイバイ、アンドリューシャ」

 

そう言ってレオニードに軽く暇の会釈をすると、レオニードについてエントランスまで見送ってくれたアンドリューシャに手を振って、ロストフスキーはアナスタシアと病院を後にした。

 

 

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~~おまけ~~

 

「姉さん、ユリウスの出産祝いどうした?」

 

「あら、もうとっくにユスーポフ邸へ発送済みよ。ムー〇ンのベビーボックスとおむつケーキ。そっちは?」

 

「あのね…。その件で姉さん、ちょっと頼まれてもらいたいのだけど…」

 

「何かしら?」

 

~~~その3日後~~~~~

 

「さすが上得意客…。早かったわ…」

 

「お姉さん…すごいね。僕たち手を尽くしてもダメだったのに…」

 

指定したロストフスキーのアパートにmi★miuから恭しく包装された目的のブツが届いたのだった。

アンカー 1

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