第九十六話 エピローグ
「じゃあね。…また来年」
「ええ。無事の出産を祈っているわ」
「レオニード達はいつまでここにいるの?」
「公現祭までだな」
「ホホ…。英国ではヴェーラさんや…それからアンナも待っておりますもの。わたくしだけがレオニードを独り占めするわけにはいかないわ」
「アデールさんはあちらへは戻らないの?英国で一緒にイースターを過ごせばいいじゃない」
「あら、わたくしだって…これからここでやることは山ほどあるのよ。…そうだ!あなたのベビーちゃん誕生に合せて、ベビーラインを開発するというのはどうかしら?」
「まぁま!すっかり実業家ですこと。…頼もしくていらっしゃいますわねぇ。侯爵?」
「え?…えぇ、まあ」
奥方の実業家としての成長っぷりに、侯爵が少し面映ゆそうな顔で頷いた。
「え~?でもウチの製品はオーガニックだから、子供もそのまま使う事が出来るよ?」
「あら、ダメよ!香料をもっと控えめにして、そう!パッケージももっと優しい愛らしい感じにして。ね?レナーテさん」
「ホホ…そうですわね。パッケージの色味をパウダーピンクや、淡いイエロー、それからペールブルーなんかの優しい…思わずお母さんが我が子のために手に取ってしまいたくなるような色にして。…これから帰ったらいくつかデザインを上げて、こちらへお送りしますね」
「素敵!楽しみだわ。お願い致しますわね!ユリウスも、前向きに考えて頂戴!ベビーライン」
「うん。そうだね。…じゃあぼくも…友人の助産師の子に色々監修をお願いしてみようかな」
「そう来なくっちゃ!」
「商魂たくましいなぁ。ママたちは。…生まれて初めてのヨールカ、本当に楽しかったです。お世話になりました。お祖母様、アデール夫人、ネーリさん。それからおじ様、ロストフスキーさん、…レオニード」
リーザが別れの挨拶と共に、お祖母様とユスーポフ家の面々と抱擁を交わしビズーを交わす。
最後にJr.とも抱擁とビズーを交わす。
そんなリーザに、
「何だよ…ビズーだけか…」
とついいらん茶々を入れてしまい、ユリウスとお祖母様にギロリと睨まれる。
そんな俺にリーザは―
チラリとユリウスと同じ碧の瞳で俺に一瞥をくれると、
おもむろにJr.の頬に両手を添えて、「チュ!」と唇を寄せ、耳元で囁いた。
「またね。レオニード」
口づけられたJr.が瞬時に真っ赤になる。
そんなJr.と、それからいささか面食らっている大人たちに向かってリーザはゆっくりと口角を上げて、ユリウスそっくりのどこか勝気で、まるで花が咲いたような笑みを浮かべて見せた。