第八十話 エピローグ
「寒…」
コートも着ずに馬を駆って来たユリウスが、自分の両腕を掻き抱いてブルリと身震いする。
「ホラ、これ着てろよ」
コートも着ずに、おまけにスカートが膝上まで破れたユリウスに、俺の着ていたトレンチコートを着せてやる。
「相変わらず細いな…」
前を合わせ、細い腰にベルトを締めてやるがベルト穴が全然足りず、仕方なしにギュッと前で蝶結びにする。俺のコートの中でユリウスの細い身体が泳いでいる。袖口から指先が僅かに覗いた腕を取り、袖口もめくってやる。
「そう?…ありがとコート。あったかい。アレクセイ…寒くない?」
「ばーか。誰に向かって言ってんだ。こんなの寒さのうちに入らねーよ」
上目遣いに俺を窺う少女のようなこいつの面持ちに愛おしさが込み上げ、思わず昔のように鼻先を指でつまんだ。
「あーあ…。それにしても…よりによってこんな姿でアレクセイと再会するなんて…。神様はほんと意地悪だなあ」
必死で俺を追ってきたユリウスの姿はたしかに凄まじいことになっていた。
膝丈の細いスカートで馬に跨ったためにスカートは派手に破け、その裂け目から美脚が露わになっていたし、結っていた髪は乱れ、ほつれた金の髪は風に踊っている。靴も片方のヒールが折れかけて歩きにくそうにヒョコヒョコと靴を庇って歩いている。
大きなため息をつきガックリと肩を落としたユリウスが乱れた髪を解いた。髪に指を入れ軽く揺すると、長い金の髪がカーキ色のコートの背に流れ落ち、その眩さに思わず魅入ってしまう。
「ハハ…。そう言うなよ。…綺麗だよ。昔と変わらず…。いや、昔の何倍も綺麗になった」
ヒョコヒョコと歩いているユリウスの背中を支えるように抱きとめたその腕に僅かに力を入れ、こいつの腰を抱き寄せる。
ユリウスがはにかんだ笑顔で俺を見上げて、コツンと俺の肩に頭を預けた。
「アレクセイ…。帰ろ…。レーゲンスブルクへ」
「ああ」
俺たちは寄り添いながら、駅舎を後にした。