第七十八話
「結局それで君も、プリンセス・アデールの起業騒ぎに、こうして巻き込まれたわけか!」
「いやだわ。巻き込まれたなんて人聞きが悪い!…でも、わたくしも新天地で何かをやりたいとずっと思っていたから、お義姉様から声をかけられたときは…嬉しかったわ」
「ドイツの企業との合同なんでしょ?業務提携先の本社は南ドイツ、プリンセスは南仏、そして君は英国だ。ヨーロッパじゅうあっちこっち大変なのではない?」
「ええ、まぁ。…そうですわね。でも昨年パリとロンドンを結ぶ旅客機の就航もスタートしたし。それによって移動時間はだいぶ短縮しましたわね」
「ヒュウ!…君、あんなスリル満点の乗り物で移動しているのかい。…勇ましいなぁ」
「あの革命のさ中のロシアから逃れられたのですもの。…死線を潜った人間というものはね、滅多な事じゃくたばらないものですわ」
「やれやれ。度胸が据わってるというか…。でも英国の屋敷の方もだいぶ空けることが多いのではない?」
「そうなのよ・・・・。それが懸念でね。我が家には年端のいかない甥や年頃の姪もいるから、治安の良い地区ではあるけれどもあまり人がいないのも不用心だし。…結局昔うちの執事を務めていた者に、執事として復帰してもらう事に致しましたわ。…亡命先のベルリンのロシア料理店で給仕をしていたところを頼み込んで…」
「そう。…そうだね。執事としての高い教育と経験を積んできた人間は…給仕ではなくそのキャリアを引き続き活かすべきだ」
「ええ…。彼が復帰してくれて…本当に助かりましたわ。でなければ、あの屋敷を手離して甥と姪には寄宿舎へ入って貰わなくてはならないところでしたもの。まぁ、どっちみち甥は…近日中にパブリックスクールの予備学校の寄宿舎へ入る予定ではありましたが」
「そうか…。侯爵とプリンセスのご子息は…これからの人生をイギリス人として…生きていく…ということなのだね。君は?忙しいようだけれども、今後も…亡命ロシア人会の方は…引き続き?」
「ええ。そちらの方も、兄の名代として、引き続き務めさせていただくつもりですわ。だからこうしてチャリティイベントの件であなたを訪問致しましたのよ」
「助かった!君のような人がいてくれるからこそ、ロシア人の互助も何とか機能しているというものだからな。ちょっと待ってて…」
ボーが秘書に小切手帳を持たせる。
小切手帳に金額を書き込むとそれをヴェーラに手渡した。
「いつもながら、気前の良いご寄付を賜り、感謝いたしますわ」
「なに…。僕が出来る事と言えば…こうして金銭面で苦境に陥っている同胞を援助することぐらいだから…ね。もっと色々な手助けが出来ればいいのだけれど」
「そんな…。ムッシュ・ボーは、こうして亡命先で経済的にも社会的にも成功を収めている数少ない…同胞ですから。お気持ち有難く存じますわ」
「そうだな…。君の兄上もまぁそうだが…僕らのような人間はごくわずかだから…な。兄上…ユスーポフ侯爵だってこうして現在国籍を有している英国のロシア人会のみならず、ここフランスのロシア人会にも所属してくれて、多大なる支援の手を惜しまない」
「尤も…軍人でありながらかなり早期に国外へ出たことを…兄は少なからず後ろめたく思っているようですわ。だからこうして表には出ずにわたくしを名代に立てているのですが」
「そんなこと…。大事なのは今同胞のために、何をどうしてやれるかだと僕は思うけどね。
あ、そうだ!これを我が同志…レオニード・ユスーポフ侯へ渡してもらえるかな。あなたの存在が私の励みになります…ってね」
ボーがサイドボードからワインのボトルを取り出し、ヴェーラに手渡した。
「こんな!貴重な…よろしいの?」
「侯爵が今回のチャリティパーティーで寄付した額の足元にも及ばないよ。では、よろしく」
「ええ…。いつもありがとうございます。御機嫌よう」
ヴェーラが暇乞いをし、ボーのラボを出て行くところに、一人の女性とすれ違った。
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「御機嫌よう。ムッシュ・ボー」
「やあ、アマーリエ」
パリからわざわざカンヌまでボーを訪ねて来たのは、雑誌『ヴォーグ・パリ』の副編集長を務めているアマーリエ・シェーンベルクだった。
「今日こそあなたから聞き出そうと思いまして。マドモワゼル・シャネルが多忙の合間を縫ってあなたの元を訪れているその真相を。マドモワゼルがあなたと組むということは…香水の発表を考えているのでしょう?」
「まいったな…。だが生憎だが…何度来られても、プレスリリースまでは何も僕の口から答えることは出来ないよ。マドモワゼルからは厳重なかん口令が敷かれているんだ」
そう言ってボーはアマーリエに向かって口を両手で塞いでみせた。
「もう!意地悪。…せっかくカンヌまで足を運んだのに」
「ハハ…。僕だってマドモワゼルは怖い。堪忍してくれな。イリーナ、マダム・シェーンベルクにお茶を」
「はい。かしこまりました」
秘書と思われる美しいロシア女性が、サモワールに火を入れる。
金彩が目を惹くエキゾチックな磁器に紅茶が注がれる。
「どうぞ」
「ありがとう」
「これは…リモージュでも、ウェッジウッドでも、マイセンでもないわね?…お国の?」
「ええ。インペリアル・ポーセレンです。帝政時代の。私の先祖が時の皇帝から下賜されたものでね…。綺麗でしょう?」
「ええ。エキゾチックでゴージャスで。…パリを始めとする今のヨーロッパの大都市も…エキゾチックで美しいロシアの文化が爛熟しておりますわね。シャネルのコレクションも然り…。パリ中のメゾンがこぞって美しいロシア人のファッションモデルを雇って、百花繚乱を競っておりますわ。そういえば…先ほどすれ違ったご婦人も…?」
「ああ。彼女も亡命ロシア人。美人だろう?パリのファッションモデルたちにも引けを取らない。革命前は押しも押されぬ侯爵家令嬢だ。知ってるかな?ユスーポフ侯爵。革命の起こる少し前に、あのラスプーチンを殺害したとされるその人物の、彼女は妹だよ。ユスーポフ家は革命前はロシア皇帝よりも富裕だと言われた一族だ」
「美しい人だったわ。…今風であか抜けて洗練されていて。今は…何をされているの?」
「今は亡命先の英国籍を取得して、兄君たちと暮らしている。とはいっても、兄君は実業家としても活躍されているから、普段は屋敷ではなくロンドンに部屋を借りて暮らしていて、奥方…彼女の義姉に当たる女性、ちなみに彼女は元大公女だ、最後の皇帝ニコライ二世の姪姫、は現在グラースで薔薇やジャスミンなんかの花農園と香料加工工場の経営をしている。だから家族とはいっても皆ほぼ離散状態なのだけどね。あ、そうだ!その義姉に当たる女性がドイツの製薬会社と手を結んで、化粧品をリリースするというんだ。マドモワゼル・シャネルの香水に関しては口を割る事はできないけれど、もしよかったら君先ほどの女性の元を訪ねて御覧?多分面白い話が聞けるのじゃないかな?元ロシア大公女がドイツの女性実業家と手がける化粧品ブランドだ!もし話を聞いて君の、『ヴォーグ・パリ』の腕利き副編集長アマーリエ・シェーンベルクのアンテナに何か引っかかるものがあったら、是非取り立ててやっておくれよ」
「それは…その化粧品もあなたが監修したの?」
「いや…。僕はマドモアゼル・シャネルの方に専念していたからね。監修…というほどのことはしていないよ。まあ助言ぐらいはしたけれどね」
―― はい。ここがそのマダム・ユスーポヴァ、元大公女アデール姫のオフィス兼自宅だ。先程の…、ヴェーラ・ユスーポヴァ嬢もここに滞在している筈だ。
ボーが手元のメモ帳に住所を書きつけてアマーリエに渡した。
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何だかボーに丸め込まれる形で、アマーリエはラボを追われるようにして、結局グラースを訪れていた。
―― まあ…せっかくカンヌまで来たのに…手ぶらでパリへ戻るのもなんだし…。
貰ったメモを頼りに屋敷を探す。
「ごめんください」
屋敷の中から現れた人間に突然の訪問を詫び、エルネスト・ボーから紹介されたこと、自分は雑誌『ヴォーグ・パリ』の副編集長で新事業の化粧品の話を是非とも伺いたいことを告げる。
アマーリエの話と名刺を受け、「少しお待ちくださいませ」と奥に引っ込んで行った。
ややあって、先ほどボーのラボですれ違った女性が現れた。
「わざわざグラースまでご来訪いただき恐れ入ります。…あら?」
向こう―、元ロシア帝国侯爵令嬢ヴェーラ・ユスーポヴァも、一瞬すれ違ったアマーリエのことを覚えていたようだった。
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―― あいにく主人、アデールは留守にしているのですが、折角ですので…どうぞ。
ガラス張りの開放的なサンルームに案内される。
サンルームからすぐ外に張り出したパーゴラから垂れ下がる葡萄の青々と茂った葉と房が目に眩しい。
「もうすぐ、葡萄の収穫時期でしてよ。わたくしたちのラボでは、葡萄の種子のオイルや葉のエキスも使用いたしますのよ。申し遅れました。わたくし、ヴェーラ・ユスーポヴァと申します」
そう名乗った目の前の美女から名刺を渡される。
ロシアの貴族階級の女性としては当然のことであろうが、美しいフランス語である。
改めて目の前の、ヴェーラ嬢を眺める。
すらりとした長身のプロポーションに、恐らくシャネルだろう、シンプルなドレスがよく似合っている。キリリとしたシャープな美貌に、甘さのないタイトなショートヘアがよくマッチしている。
「あの…?」
アマーリエの視線を感じたヴェーラに声をかけられ、ハッと我に返る。
「すみません。じろじろと不躾に眺めてしまって…。でもあまりにお美しいから。いえ、美しいだけではなく、新しい…といいましょうか?媚びることのない鮮烈で強い美しさ…まるでマドモワゼル・シャネルや、イサドラ・ダンカンを見た時のような…強い印象を受けましたわ」
アマーリエの賛辞にヴェーラは一瞬目を瞠り、その後クスクスと笑い出した。
「ほめ過ぎですわ。…わたくしは義姉と友人に引き込まれるような形で、この事業に参加したにすぎませんもの。この新天地で…ずっと何かをしたい…しなくては、と思いながらもなかなか一歩を踏み出せずにいた私の手を引っ張り、背中を押してくれたのは…義姉であり、友人であり、兄…家族であり、そして恋人です。皆にそうやってお膳立てをされてようやくここで、…あなたのようなキャリアウーマンから、畏れ多くも取材を受けている訳ですわ」
「そんな。ご謙遜が過ぎますわ。あなたのような魅力的な女性が広報を務めるブランドですもの。きっとそれは商品にいいイメージを与えると思いますわ。さて、では商品について質問させて頂いても宜しいですか?」
「はい。どうぞ」
「今回リリースされる商品のラインナップについてお聞かせください」
「今回は基本的なラインナップ、スキンケアとヘアケアの製品を作りました。これがお顔の汚れやお化粧を落とすクレンジングミルクです。お手をよろしいですか?」
ヴェーラがボトルから中身を少し掌にあけると、アマーリエの手の甲に丁寧に伸ばした。
やわらかで優しいテクスチャだ。仄かな薔薇の香りが立ち上る。
「いい香りでしょう?」
「ええ。薔薇の香りですね。それに…とろりとしたテクスチャも肌に優しいわね」
暫く手の甲にミルクをなじませた後、ボウルに張った水で優しく洗い流す。
「あら!…私の手、何だか一段階白くなった気がするわ。…恥ずかしい、随分と汚れていたのね」
「生きて活動しているのですもの。当たり前のことですわ。その後これを。ハーブウォーターです」
リネンで水気を拭き取った手の甲に、化粧水をひたひたとなじませる。
「これは一番ノーマルなタイプのローズウォーターです。バイエルンの良質な水をベースに、ここグラースで栽培したダマスクローズ、植物由来のエタノール、ローズヒップ、それからハマメリスエキスを配合しております。これはエタノール、つまりアルコールの入ったタイプですが、よりセンシティブなお肌のために、アルコールフリーの優しい使い心地と作用のものもありますわ」
「スッとして…いい香りね」
「その香りのもたらす精神的な効果も重要視しておりますのよ。香りは、成分と同じぐらいこだわりましたわ。肌から立ち上る清潔ないい香りは…女性ならば堪りませんわよね」
「ええ。そうね。こんなスキンケアラインで一日を終えたら…仕事で張りつめた神経もリセット出来てリラックスした睡眠に誘われそうだわ」
「ええ。そうですわね。自律神経というものは…女性の美と健康にも大きく作用するようですわね。そしてそれを整えるのに大きな効果を発揮するのが香りであったり心地のよい感触であったり…そういったものだそうですわ」
よどみなく商品の説明をしながらも、ヴェーラは次のボトルを手に取って中身を取り出した。
「それは?」
「これは保湿ミルクです。やはりローズエキスとアロマを中心に据え、基材にはバイエルンの天然水とここグラースで採れたアーモンドオイル、オリーブオイル、グレープシードオイル等を贅沢に配合しております。乳化剤には植物由来のセタノールを使用しておりますわ。ナイトケア以外でも、朝のお化粧の前に、これをベースとしてお使いになるとおしろいによる肌へのダメージを軽減することが出来ますわ。以上がベーシックなケアの流れですわ。乾燥が気になる時や、日焼けをした時には、このミルクよりもテクスチャがしっかりしたクリームもございます。これは保湿成分に蜜蝋やラノリンを配合してあります。冬場のかさつくかかとや肘、膝などピンポイントにご使用になって滑らかさを保つのも良いかと思います」
「先ほどから思っていたのだけれど…、製品に配合されている全ての成分を詳細に把握してらっしゃるのね。それらは…公表されるのかしら?」
「ええ。勿論。これが、ボトルのサンプルですが、どの製品のボトルに貼られたラベルにも原材料は全て記されております。その原材料を使用者の方が見て何で出来ているか何が含まれているか、理解して安心してお使いいただけるようになっておりますわ」
「この…瓶のエンボスは?」
「これは、買って頂いたお客様の認識番号ですわ。通信販売で顧客を管理するメリットの一つに、リユース という点があります。使い終わったお化粧品の瓶は、購入した時に入っていたこのフランネルの袋に入れて、わたくしどもの工場へ着払いで送り返してもらいます。そうして戻って来た瓶を工場で洗浄消毒し、お客様のデータに基づき新たに中身を充填し返送する…というシステムとなっております。勿論、お客様の多くいらっしゃるエリアには販売店を設け、そこから販売員を派遣し使用後のボトルの回収やお届け、それからユーザーの方へのカウンセリングなども行います。ですから実際は通信販売と訪問販売の混合型といったところでしょうか」
「ああ!このネルの袋に縫い込まれている金属のタグは!!」
「ええ。工場の宛先ですわ。ユーザーの方はそのまま袋に入れて投函するだけでよいのです」
「ボトルのデザイン素敵ですね」
「ええ。これは、デザイナーでいらっしゃる代表者のお母君によるものなのですよ。郵送する際の破損防止のフランネルの布袋も…彼女のアイデアです」
「今日は突然の訪問にもかかわらず、親切に丁寧なご説明をありがとうございました。ここフランスでのリリースは…まだ先とのことでしたが、発売開始が楽しみですわ」
「ありがとうございます。本当はまだ…石鹸やヘアオイル、それから男性用のシェービングクリームなどもあるのですが…。それはまたの機会と言う事で」
「シェービングクリーム?!珍しいですね」
「ええ。代表者の特技の一つにね、男性の髭のトリミング というのがあって・・・・。なんでもね、昔彼女のお父様が病を患って寝たきりだった時に、毎日髭をあたってあげていて…それで腕を上げたそうですよ。だから代表者の強い意向により、わたくしどもはスタート時から女性用だけではなく紳士用の製品もラインナップしているのです」
「お父様への愛から生まれたメンズライン…。これも微笑ましいエピソードですね。では、掲載が決まりましたら本誌をお送りいたしますわ。送り先は…こちらと、この名刺の…ドイツの本社、それから」
「出来ればわたくしも見てみたいわ。お差支えなければ、こちらにも一部送ってもらえるかしら?」
ヴェーラが名刺に英国の屋敷の住所を書き添えた。
「勿論。ではこの三つの宛先にお送りしますわね」
「ありがとう。あ、どうぞサンプルキットをお持ちになって」
「こんなに…よろしいの?」
気前よく手渡されたサンプルキットにアマーリエが目を瞠る。
「ええ。だって…これが、あなたが初めての取材だったのですもの。記念すべき第一号!ですから特別です。ヴォーグ編集部は…きっとあなたのような働く女性が沢山いらっしゃるのでしょう?皆さんに…いきわたるかしら?」
「これだけあれば、十分です。皆、喜びますよ。ありがとう。製品の盛況と…それから一日も早いフランス上陸を祈っております」
貰ったサンプルの入った紙袋を嬉しそうに掲げると、アマーリエはその屋敷を後にして行った。
~~~~~
数か月後―
「あのヴォーグで採り上げられた記事の反響が思いがけず大きくて、フランスでの販売を早めようと思う。それに合わせて急ぎグラースにも工場を作る。その用地を見に来たんだ」
ユリウスはグラースを訪れていた。
「工場用地は何件かピックアップしておいたわ。すぐに見に行けるようになっている。…とその前に」
―― 貴女が来るのをずっとお待ちかねだった人に、まずは会ってあげて。
アデールと屋敷を共同購入し、現在は敷地の別館で暮らしているヴァシリーサの元を訪れる。
「おばあ様!」
「ユリウス!!」
抱き合って頬を寄せ合い再会を喜ぶ。
「相変わらず綺麗だねぇ」
「ふふ…ありがとう。おばあ様も!」
「南仏の温暖な気候と、静かな暮らしと…それからあなた達が作った化粧品を毎日使っているからね」
「じゃあ、効果はバッチシだ。フランスでも受け入れられるといいな」
「大丈夫。…わたくしを見れば、効果は一目瞭然でしょう?お仕事も結構だけど、まずはお茶にしましょう。アデールさんも!」
「はいはい。今日は天気も良くて暖かいから、庭で頂きましょう」
「そうだね。南仏はやっぱり暖かいね」
ドイツよりも明らかに明るい日差しを、手をかざしてユリウスが仰ぎ見る。
「今日は特別よ。そうだ!フィガロ紙から取材の申し込みがあってね。あなたがこちらに滞在しているから明日予定をいれておいたわ」
「フィガロ!!」
驚いたようにユリウスが目を瞠った。
「ヴェーラが盛んに広報活動に励んでくれたおかげね。あの…ヴォーグのアマーリエさん?だったかしら、彼女とあれから親しくなって、色々な所へ紹介してくれているようで。今回もそのおかげでフィガロの取材につながったのよ」
「アデール様、ユリウス様。お茶の支度が整ってございます」
「ありがとう、オークネフ。じゃあまずはお茶にしようか」
―― わぁ!サモワール!!
庭園にしつらえられたテーブルに、ユリウスが駆け寄って行った。